真似したくなるナイロン弦ギターによる演奏
(ポピュラーミュージック編)
クラシックギタリスト、フラメンコギタリスト以外でナイロン弦ギターをメインで使用するギタリストは、それほど多くないのかもしれません。それだけ、上記2つの音楽に占める割り合いが高いのがナイロン弦ギターなのかもしれません。それ以外の音楽をポピュラーミュージックと定義した場合、例えば、ロック、ポップス、ジャズなど、このようなジャンルの音楽を演奏するギタリストは、ナイロン弦ギターをサブ的に使っていることがかなり多いと言えます。というのは、ナイロン弦ギターが、それだけで非常に個性的で音が持つイメージが強烈であるため音楽に対して支配的になることが多く、使われる場面を限定したいというのがアーティストの狙いなのだと思います。
このようなアーティストにおいて、ナイロン弦ギターは作曲をする場面などでは使われることが多いという話を聞いたことがあります。鼻歌を歌いながらメロディーやコード進行を演奏するそれだけでイメージが広がり曲が作りやすいのかもしれません。それだけナイロン弦ギターの感情表現能力が高いのであろうと思われます。
ナイロン弦を使うギターは、大きく区分してクラシックギターとフラメンコギターのいずれかといってもいいでしょう。スペイン以外のドイツやフランスなどのヨーロッパと、ブラジルやアルゼンチンなどの南米はナイロン弦ギター弦の製作が盛んな国ですが、基準となっているのはいずれもクラシックギターです。またフランスは、意外とフラメンコ人口も多いことからフラメンコギターも製作されています。
クラシックギターとフラメンコギターの違いで最も大きいところは弦高です。個体によっては、約10mm程度の違いで、フラメンコギターの方が弦高が低くなっています。この違いの理由としては、それぞれの音楽ジャンルの違いによる弾き方、表現の手法に依存する部分が大きいです。
さらにピックアップ付きのナイロン弦ギターは、基準がクラシックギターなのかフラメンコギターなのか分からないことも多く、それ自体が独自の考えの下に設計、製造されていることが多いです。もちろん、クラシックギター、フラメンコギターという括りで製造されている場合もあります。大規模メーカーの量産品が多いジャンルかもしれません。
以下に紹介するギタリストの演奏には、ナイロン弦ギターが使用されていますが、上述したクラシックギターなのか、フラメンコギターなのか、それ以外なのかは明確には判断するのは非常に難しいです。違いを判断するには、本人によるコメントや、明確な構造上の違いと、サウンド、音の持つ鳴りの雰囲気などに基づいてなされることになるでしょう。
ナイロン弦ギターがよく分からないという方も多くいらっしゃると思いますが、鉄弦のアコースティックギターとの違いをよーく聞き比べていただければ、次第に聞き分けられるようになります。サウンドの違いというのは、曲の持つ雰囲気を特定することから、音楽を構成する上で重要な要素となっています。
1.Our Spanish Love Song : Pat Methney
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Pat Metheny がナイロン弦ギターを弾き、巨匠Charlie Headenのウッドベースによるデュオ演奏。非常に美しく哀愁漂う名曲。この曲が収録されたアルバム Missouri Sky(ミズーリの空高く) は、時代的にはPat Methney Groupの活動が徐々に減り始めたソロ活動時のものかと思われます。メセニーの出身地であるミズーリ州に思いを馳せた全曲が牧歌的でありながら美しく、どこか悲しげな雰囲気を醸し出しています。
アルバムのほとんどがおそらくナイロン弦ギターによる演奏と思われます。中でもこのOur Spanish Love Songは、名曲中の名曲と言ってもいいでしょう。ガッツリとスパニッシュスケールを弾いているわけでもないけれど、どこかスペインを思わせるメロディーセンスはさすがと言うしかありません。アドリブパートは回避してメインテーマだけ練習して披露するだけでも、楽しいと思います。
ぜひ、ナイロン弦ギターを手にしたらチャレンジして欲しい1曲です。メセニーの演奏ではないですが、この曲にスペイン語で歌詞をうたっている演奏もあります。これまた素晴らしいのでぜひ聞いてみてください。
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2.Red Dust And Spanish Lace : Acoustic Alchemy
ナイロン弦ギター担当のグレッグ・カーマイケルと鉄弦のアコースティックギター担当のニック・ウェブの2人によるイギリス出身のギターデュオ。ナチュラルなギターデュオサウンドばかりではなく、バンド形式の軽快なライトフュージョンのような演奏も披露しています。
アコースティックギター担当のニック・ウェッブが若くして逝去してからは、完全なバンド形式として再始動しております。そんなアコースティック・アルケミーのデビュー作からのラスト曲。スパニッシュフレーズの前奏が5分ほど続き、アップテンポへの後半へと早変わり。後半もスパニッシュを意識したサウンド作りになっています。
まあ、このグレッグ・カーマイケルのアドリブソロのカッコいいこと、これは頑張って完全コピーを目指したいところですね。ニック・ウェッブはアコギで軽快なリズムを延々と刻んでいます。どうもライトな環境音楽として捉えられがちなグループですが、エモーショナルな演奏を聴けばそのイメージも払拭されるはずです。
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3.Brazilian Stomp : Earl Klugh
ナイロン弦ギターと言えばアール・クルーといっても過言ではないほどのナイロン弦ギターの第一人者。ジャズギタリスト ジョージ・ベンソンと共演したアルバムからの1曲です。このアルバムも相当にヒットしましたよね。完全なる名盤です。1枚通してぜひ聞いて欲しいです。
アール・クルーのナイロン弦ギターサウンドの特徴はとにかくメローな音。それが曲調によってはメロー過ぎるのでその部分に関しては個人的には苦手だったりするのですが、この曲は、その対極にあります。かっこいいリズムとベンソンとのアドリブプレイは圧巻です。エキゾティックなメインテーマ、タイミング取るのが結構難しそうです。
これはバンドで演奏したらカッコいいですよね〜キメの部分、走っちゃいそうですが。。。アドリブはベンソン→クルーの順番です。ナイロン弦ギターとベンソンのフルアコサウンドとの区別、つきますか?みなさんなら大丈夫ですよね!とにかくバランスもよく、サウンドもかっこいい曲です。
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4.Spain、地中海の舞踏:Al Di Meola & Matteo Mancuso
チック・コリアのSpainとアル・ディ・メオラの地中海の舞踏と言えば、ポピュラーミュージックにおけるナイロン弦ギターの真骨頂かもしれません。メンバーもいくぶん変遷のあったスーパーギタートリオで演奏されないことはない楽曲です。
これはパコ・デ・ルシアが参加していればフラメンコ編に入れてもいいかもしれませんが、純粋なフラメンコではないのでポピュラーミュージック編に入れさせていただきました。曲としては、どちらの曲もジャズメン作曲とあって各人のアドリブプレイに特化した楽曲で、難易度は高レベル。これがバシッと決まったらプロ級でしょうね。
この向かって左の若者、Matteo Mancusoくん、とにかく右手のテクニックが異常。普段はエレキギターですべて指弾きアポヤンド&アルアイレスタイルとでも言うのでしょうか?エレキであんな風に弾く人は見たことがありません。とにかくヤバめの若者です。普段弾いているジャンルとしては最新のフュージョン系ですね。
やや演奏の呼吸が乱れている個所、チューニングがちょっと怪しい点もありますが、いいテンポでの若者とおじたんとの共演。見ていて微笑ましいのと緊張感が伝わるのでチョイスさせていただきました。ライブ演奏っていうのもいいですね。この曲はライブでやって超盛り上がるので、ぜひチャレンジしてみてください!
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